伝声管(住宅用)の製作
伝声管(住宅用)の製作をしました。
伝声管とは
伝声管(でんせいかん)とは、金属管などを用いた通話装置である。
概要
金属等の管の両端に、送話口と拡声装置を兼ねた漏斗状の受話器が付けられた構造をしている。この漏斗に口を近づけて話すと、管の中を音が伝搬し、他方の受話器から音声が聞こえる仕組みである。不要な会話や音を伝達したくない場合のために、受話器に蓋や栓が備えられているものもある。
電力などのエネルギーがいらず、単純な構造で信頼性も高いことから、大型の船舶や工場などの広い建築物などで内線通話のために利用された。
電話や無線機などの通信手段が発達した現在では実用としては廃れており、以前までは軍艦などで電力が絶たれた際に用いるための予備として使われていたが、回線の高性能化及び多重化、停電時におけるバックアップ体制の拡充などにより冗長性が向上した事、伝声管の代わりを無電池電話のようなものが補うようになった事、また気密・水密上の弱点ともなる事から、予備としても搭載している艦はほとんど存在しない。
原理
直径の小さい管の中では音波は平面波のような状態で伝搬し減衰が少なくなるという原理を利用する。障害物のない場所での音波の伝搬は距離の2乗に比例して減衰するが、細い管の中を伝搬する場合は音波が拡散しないため減衰を大幅に抑えることができる。このため、伝声管を用いると、障害物のない場所で会話するよりもはるかに遠い場所に音声を伝えることができる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
住宅用の伝声管を製作することに
よくお付き合いをさせて頂いている工務店さんよりご連絡がありました。
中島さん『住宅用の伝声管造れる?』と渡された3枚の写真。
写真を見て真っ先に思ったのは、子どもの頃によくテレビで見ていた「未来少年コナン」。
バラクーダ号に取り付けられた伝声管でジムシーとダイス船長がやり取りをしている姿を思い出しました(笑)
私のような昭和時代生まれだと、宮崎駿監督の作品の中でも「天空の城ラピュタ」ではなく「未来少年コナン」を思い出します。
と、昔話は置いておいて・・・
とりあえずは色々と条件を伺って、『これは出来そうだ』と感じたんで、製作をさせて頂くことにしました。
久々に楽しそうで面白うそうな案件にワクワク(*^^*)
ここからは、伝声管を手探りで造って、そして完成までの流れの中で色々と頭を悩ませたことを含めて解説したいと思います。
1.住宅用の伝声管の図面を描く
まずはこんなイメージかな。
住宅の2階が居住スペースで、1階が作業スペース。
しかし、まったく伝声管の知識がない。
なので、図面を描いていくにしたがって疑問が続々と出てくる。
2.伝声管の管のサイズは?
まず思ったのが、伝声管の管のサイズって何センチくらいが良いの?という事でした。
伝声管をヤフーの画像検索で色々と見てみましたが、これと言って決まったサイズというのはなさそうだ。
何と言ってもすべてが手探り。
どうしようかと思っていたところ、工務店さんからのアドバイスで『40ミリくらいが良く声が通るみたいですよ』と言われたので、規格品でいちばん近い42・7ミリを使用することにした。
当然、工務店さんも詳しくない(笑)
3.1階と2階の伝声管の接続は?
次に『1階の伝声管と2階の伝声管をどう接続するのか?』というので悩みました。
1階の天井から2階の床には高さ(見えない部分)がありますので、そこでうまく接続が出来ないといけません。
もし、音漏れがするような構造だと声がうまく伝わりませんので機能的に致命傷となります。
そして、色々と悩んだ結果。
この部分は通常の製作でも多用している鞘管(さやかん)方式を採用することにしました。
4.漏斗(じょうご)のようなラッパのような部分はどうする?
あとから思えば、いちばん悩んだのはこの部分だったかも。
そう、伝声管の口を近づけてお話をする部分である、漏斗(じょうご)のようになったラッパ部分です。
既製品があればいいなぁ~と、モノタロウで探してみましたが、漏斗になるようなものは厚みが薄いものしかありませんでした。これでは溶接が出来ません。
結局、曲げ専門の加工屋さんに円すい曲げ(レジューサー曲げ)でお願いすることに。
しかし、ここでも問題が・・・
通常だとクルンと曲げて継なぎ目が1か所出来るのですが、『サイズが小さいから2分割でね』という回答。
数社あたってみたがどこの加工屋さんも同じ回答。
しょうがない、溶接個所が増えるけど、これでいこう。
5.ラッパ部分の開閉式のフタはどのような形にする?
2階の伝声管のラッパ部分の開閉式のフタも大事なところだよね。
ここはシンプルにカッコよく見せたい。
この部分は伝声管を造りながら考えることにした。
6.伝声管を製作中の失敗談
実は使用した鋼管には規格で色々と厚みがあります。
最初、出来るだけ軽量にしようと薄い材料を使って伝声管のラッパ部分近くのL型部分を曲げたのですが潰れてしまいました。
多分、厚みが原因だろうと思い、少し厚い鋼管に変えたところうまく曲がりました。
7.伝声管の完成写真
伝声管の全体写真
手前が伝声管の2階部分になります。
2階のラッパ部分には空気や虫の流入を防ぐための蓋が付いています。
こちらの写真は上の写真の逆側で、1階側から見た伝声管の写真です。
2階部分伝声管とは違って、ラッパ部分には蓋が付いていません。
伝声管を分解したところ
分解すると、これだけのパーツ数です。
意外とパーツ数は少なくて伝声管が出来ます。
伝声管の鞘管(さやかん)部分
1階と2階の伝声管の鞘管(さやかん)部分です。
1階天井から2階床の厚みに施工誤差があっても伝声管同士の鞘管(さやかん)が合うようにクリアランスを設けています。
伝声管を固定する壁取付金物
伝声管は軍艦に付いているイメージがあるので、インダストリアル調の金属的な感じの強い取付金物を選びました。
真鍮色(3分ツヤ)のウレタン焼付塗装でさらにイイ感じに見えますね。
一緒に固定用のビスの頭も真鍮色に塗装しています。
※真鍮色は塗装屋さんにサンプルを作って頂き、工務店さんと話し合った上で決めました。
壁取付金物を伝声管に取り付けた所
こんな感じになりました。
『カッコよくない?』と自画自賛(笑)
伝声管は1階部分で2か所、2階部分で2か所の固定となっています。
天井裏(床下)に隠れる部分
1階部分の伝声管は天井に、2階部分の伝声管は床にそれぞれビスで固定をします。
伝声管1階のラッパ部分
ラッパ部分の円すい曲げ(レジューサー曲げ)は鉄板を押して少しずつ曲げて成型をしていきますので、ラッパの内側には押し跡が付いています。
この押し跡がイイ感じなのと、継ぎ目が上下に2か所ありますが、押し跡と同化をしていてあまり気になりません。
ちなみに一体に見えるラッパ部分は3つのパーツを組み合わせて造っています。
伝声管2階のラッパ部分(フタを開いたところ)
伝声管2階のラッパ部分にはフタが付いています。
金属同士だと開けた時にカチャンカチャンと音がします。
なので、干渉する部分にはゴムパッキン(1mm)を取り付けています。
伝声管2階のラッパ部分(フタを閉じたところ)
フタを開閉する取っ手にも悩みました。
右利きでも左利きでも違和感なく開けれるように中央部分にシンプルに丸鋼を曲げて取付けました。
伝声管2階ラッパ部分を横から
伝声管2階のフタを開閉する金具部分です。
フタをいっぱいに開けると金具同士が干渉しますので、ゴムのクッションを取り付けています。
ボルトは両方とも袋ナットにして、見た目も意識しました。
ラッパ部分と管(パイプ)部分は溶接で繋いでいるのですが、一体で造ったように見えるようにキレイに研磨をして仕上げています。
7.住宅用の伝声管を造った感想
伝声管をいろいろと調べながら試行錯誤をして組み立てていきましたがお客様から依頼をされたものを形にするのって楽しいなぁとあらためて感じました。
今回、住宅用という事で色々と妄想を膨らませながらの製作でした。
久々にワクワクとさせてもらったお仕事でした♪
後日、工務店さんより伝声管の完成写真とメッセージを頂きました!
工務店さん『最高の出来でした!!!お客様も大満足でしたよ!また何かありましたらよろしくお願いいたします。』
※画像クリックで伝声管の写真が拡大出来ます。
想像以上にカッコよく仕上がってしまいました(笑)